「また鍵なくしたの?ほんと学習しないよな」
その一言、軽く言ってるつもりなんだろうけど——正直、刺さる。
その日も、玄関の前でバッグをひっくり返してた。レシート、リップ、イヤホン、ぐちゃぐちゃの中にあるはずの“鍵”だけが、どこにもない。
「ほら見ろ、まただろ?いい加減にしろよ」
後ろからため息混じりに言われて、何も言い返せなかった。
……わかってる。私が悪いのは。
でもさ。
そんな毎回、責める必要ある?
その日は結局、予備鍵でなんとかなったけど、ずっとモヤモヤしてた。
“なんで私はこんなに鍵なくすんだろう”
“なんでこんなに言われなきゃいけないんだろう”
帰り道、なんとなく寄ったダイソーで、私は“それ”を見つけた。
小さくて、シンプルで、どこにでもありそうな見た目。
でも、説明を見た瞬間、思わず立ち止まった。
「すぐカギなくす人、これ」
……え、なにこれ。
正直、ちょっとムカついた。
でも同時に、
「あ、これ私だ」
って思った。
仕組みは単純だった。
鍵につけて、ドアの近くに貼り付けておく。
外出時は“カチッ”と外して持っていく。
帰ってきたら、また“カチッ”と戻す。
たったそれだけ。
なのに、なぜか今までなかった。
「……これ、試してみるか」
正直、期待はしてなかった。
どうせまた忘れるんでしょ、って。
——でも。
その日から、変わった。
まず、“探す時間”が消えた。
玄関に行けば、そこにある。
バッグを漁る必要もないし、ポケットを全部確認する必要もない。
ただ、“そこにある”。
それだけで、こんなにストレス減るんだって、ちょっと驚いた。
そして何より。
あの人が、何も言わなくなった。
ある日。
「今日、鍵は?」
って聞かれたから、
私はわざと、何も言わずにドア横を指さした。
カチッ。
そこに、ちゃんとある鍵。
「あ……」
一瞬、言葉に詰まる顔。
その顔を見た瞬間、
ちょっとだけ、スカッとした。
別に、大げさな復讐とかじゃない。
怒鳴り返したわけでもないし、言い負かしたわけでもない。
でも。
ずっと言われ続けてた“あの一言”が、
もう、言われなくなった。
それだけで、十分だった。
「……便利じゃん、それ」
ぽつりとそう言ったのを、私は聞き逃さなかった。
だから、私は軽く笑って言った。
「でしょ。100円だけどね」
その瞬間の、ちょっと悔しそうな顔。
ああ、やっと一つ、取り返したなって思った。
たった100円。
たった小さなアイテム。
でもそれで、
毎日のイライラも、
無駄な時間も、
あの一言も——
全部、なくなった。
鍵をなくさなくなっただけじゃない。
“自分がダメだって思わされる時間”も、なくなった。
これ、地味だけど。
ほんと、バカにできない。
もし昔の私みたいに、
玄関で毎回バッグひっくり返してる人がいたら——
ちょっとだけ、試してみてもいいかもしれない。
少なくとも私は、
もう二度と、
あの言葉を聞かなくて済むから。