「合計2,690,000円???」
その数字を見た瞬間、思わず二度見した。いや、三度見かもしれない。
手に持っていた大学からの学費納入通知書。紙一枚なのに、やけに重い。
「……え、ちょっと待って。これ、桁合ってる?」
思わず声に出た。
だって、俺の中の“大学の学費”って、せいぜい年間100万円ちょっとのイメージだったからだ。
それが、いきなり269万円。
しかも内訳を見ても容赦がない。
授業料:1,750,000円
施設設備資金:400,000円
教育充実費:500,000円
後援会費、校友会費……
「いやいやいや、どれも削れないやつじゃん……」
頭の中で計算がぐるぐる回る。
貯金、生活費、これからの支出。
一瞬で“現実”が押し寄せてきた。
正直、焦った。
というか、普通にビビった。
「これ、マジで払えるのか……?」
気づいたら、机に向かって電卓を叩いていた。
収入、固定費、削れる支出。
スマホのメモには、節約案がどんどん増えていく。
外食削減、サブスク見直し、副業も視野に入れるか?
奨学金の条件も調べ始めた。
――完全に“戦闘モード”に入っていた。
そんな中、ふと横にいた息子が一言。
「それ、前期だけだよ」
……。
…………。
「は?」
一瞬、時間が止まった。
「前期ってことは……後期もあるってこと?」
「うん」
軽く言うな。
俺はその場で、三秒ほど完全に無言になった。
頭の中で、さっき組み立てた計算が全部崩れ落ちる。
“269万 × 2”
その現実が、静かにのしかかってきた。
――いや、待て。
ここで崩れるわけにはいかない。
俺は深く息を吸った。
そして、もう一度通知書を見た。
これはただの“出費”じゃない。
ただの“支払い”でもない。
これは、“投資”だ。
そう思った瞬間、不思議と頭が冷えてきた。
俺はノートを引き寄せて、新しいページを開いた。
そこに、大きくこう書いた。
「大学4年間=プロジェクト」
その下に、具体的なプランを書き出す。
・学費支払いスケジュール
・奨学金の検討
・生活費の見直し
・収入の増やし方
・そして――息子の目標
全部、整理していく。
さっきまでの“焦り”が、少しずつ“戦略”に変わっていくのがわかった。
書き終えて、俺はペンを置いた。
そして、息子を見る。
「……いいか」
少しだけ間を置いて、はっきり言った。
「この金、出すのは俺だ」
息子は黙って頷く。
「でもな」
俺は続けた。
「これは“ただの学費”じゃない。投資だ」
「お前自身へのな」
息子の目が、少しだけ真剣になる。
「だから、ちゃんと回収しろ」
「結果で返せ」
しばらくの沈黙。
そして、息子が静かに言った。
「……わかった」
その一言で、十分だった。
正直、金額だけ見ればキツい。
普通に考えれば、簡単な話じゃない。
でもな。
ここで逃げたら、たぶん一生後悔する。
だから俺は決めた。
この269万円は、“失う金”じゃない。
“未来に投げる金”だ。
そう思えば、不思議と腹が決まる。
通知書をもう一度見て、俺は小さく笑った。
「……高いな」
でも、その分だけ価値を作ればいい。
それだけの話だ。
そして心の中で、静かに思った。
――この投資、絶対に回収させてやる。