朝、少し冷たい風が頬をかすめる中、私はいつもの焼き鳥屋に向かって歩いていた。空腹で、頭の中は香ばしい串のイメージでいっぱいだった。今日は特に、昨日の疲れを忘れたくて、少し贅沢に昼食を楽しもうと心に決めていた。
店に着くと、シャッターに貼られた紙が目に入った。
「本日休業」――文字がくっきりと視界に飛び込む。
一瞬、頭が真っ白になった。え、今日って…私のランチ計画は?
思わず手を止め、紙を二度見する。さらに目を凝らすと、細かい文字が書かれていた。
「誠に勝手ながら、店主の誕生日のため休業いたします」
心の中で小さく呟いた。――誕生日? まあ、そりゃ仕方ないけど、今日の私はただ空腹で…それでも理性を取り戻す。
目の前に同じく困惑した顔の人たちがちらほら。皆、軽く眉をひそめている。私も小さく溜息をつきながら、スマホを取り出して友人にメッセージを送った。
「信じられる?焼き鳥屋、店主の誕生日で休みだって!」
返信がすぐに返ってきた。
「えー!マジか、それは無理だねw」
私も笑いながら、少し肩の力を抜く。だが、内心ではまだ腹が鳴っている。どうしても焼き鳥の香りが頭から離れず、紙を眺める目が何度も店内に戻ってしまう。
そこで思い切って、シャッターの前で立ち止まり、深呼吸をした。
「まぁ、誕生日なら仕方ない…でも、どうしても今日食べたかった…」
すると、シャッターの向こうから小さな声が聞こえた。
「お待たせしてごめんなさいね、今日は私の誕生日だから休むことにしたんだ」
その瞬間、シャッターの端が少し開き、店主の顔が覗いた。笑顔が柔らかく、目元には少しの照れが見える。
「せっかく来てくれたのに…申し訳ないね」と店主は言い、手を軽く振った。
私は息をのむ。怒りや苛立ちはすっかり消え、代わりに心の中に温かさが広がる。店主はただ、自分の時間を大切にしたかっただけなのだ。
「…そっか、誕生日か」と私は小さく呟いた。
周囲の人たちも少しずつ微笑み、空気が柔らかくなる。
その後、店主は冗談交じりに「来年はちゃんと知らせるね」と言い、紙を指さした。
私は軽く笑いながら頷き、スマホで友人に再びメッセージを送る。
「見て、店主が誕生日で休むって可愛いでしょw」
その日、私はただの客としての立場を超え、店主の人柄と小さな誠実さを感じた。空腹も一瞬忘れ、心が満たされる感覚を味わう。
帰り道、冬の光が反射する道を歩きながら、私は心の中でそっと思った。
「こういう日も悪くない。人の時間を尊重すること、理解すること…それが、ちょっと大人になった証かもしれない」
焼き鳥は食べられなかったけれど、心の中で小さな満足と幸せを抱え、私はゆっくりと家路についた。