レジ前に並んだ瞬間、私は固まった。
「……え、80人?」
正直、その場で帰ろうかと思った。
ただのドリンク買うのに、この行列はさすがにキツい。
でも、おかしい。
誰もイライラしてない。
むしろ、みんな笑ってる。
なんで?
前をよく見て、理由がわかった。
店員さんだ。
めちゃくちゃ忙しいはずなのに、
ひとりひとりに軽くツッコミを入れてる。
「ストロー2本?仲良しですね〜」
「今日も来ましたね、常連さん認定です!」
しかも、ただの会話じゃない。
お客さんがぼーっとしてたら、
肩をトントンって軽く叩いて——
「次ですよ〜、現実に戻ってください(笑)」
……なにこれ、ちょっと好き。
普通ならイラつくはずの行列が、
ちょっとしたイベントみたいになってる。
気づいたら、私はスマホを出してた。
(これはネタになる)
並びながら観察する。
注文のスピード、異常に速い。
でも、雑じゃない。
むしろ丁寧で、ちゃんと一人一人に反応してる。
「この人、ただ者じゃない。」
さっきまでの“早く終われ”って気持ちは、
いつの間にか消えてた。
代わりに湧いてきたのは——
「次、何言われるんだろう?」
待ち時間が、ちょっと楽しみになってる。
こんなこと、今まで一度もなかった。
そして、ついに私の番。
少し緊張する自分に気づいて、笑った。
(なんで客なのに緊張してるんだ)
店員さんが顔を上げる。
一瞬で目が合う。
「初めてですよね?」
え、なんでわかるの。
「ちょっと顔が“様子見勢”だったので(笑)」
完全にバレてる。
思わず吹き出した。
注文を伝えると、手は止めないまま、
「いいチョイスです、それ今日めっちゃ出てます」
軽い一言なのに、なんか嬉しい。
ドリンクを受け取るとき、
また軽くトントンって肩を叩かれて、
「はい、今日のご褒美です」
……やばい、ちょっと感動した。
たかがドリンク。
でも、この体験は違う。
ただ待つだけの時間が、
ちょっと楽しい記憶に変わった。
気づけば思ってた。
「この店、また並んでもいいな。」
——いやむしろ、
またあの店員さんに会いに来たい。