正直、あの話を最初に聞いた時は冗談だと思った。
「500万円あげるから、旦那と別れてくれない?」
目の前に座っていた女は、当たり前みたいな顔でそう言った。
しかも現金。
封筒の中身を見た時、頭が一瞬真っ白になった。
普通じゃない。
どう考えてもおかしい話だった。
でも、その時の私は、完全に冷静ではいられなかった。
当時、夫との関係は正直うまくいっていなかった。
会話は減り、家の中でも距離があって、
どこか他人みたいな空気があった。
そこに、この話。
「別れてほしい」
しかも、500万円付き。
綺麗事だけじゃ済まない現実もあった。
生活のこと、将来のこと。
色々考えた結果、私は離婚を選んだ。
決して軽い決断じゃなかった。
でもその時は、それが一番現実的だと思った。
離婚は思ったよりあっさり終わった。
夫は驚いていたけど、強く引き止めることもなかった。
その時点で、ある意味すべて分かっていたのかもしれない。
そして、その女はすぐに元夫と結婚した。
ここまでは、まだ理解できた。
問題は、その後。
1年も経たないうちに、二人は離婚した。
理由は詳しく知らない。
でも、うまくいかなかったことだけは確かだった。
そしてある日、突然連絡が来た。
あの女からだった。
「500万円、返してもらえますか?」
……は?
一瞬、意味が分からなかった。
何を言ってるのか理解できなかった。
「約束でしたよね?」
そう言われて、逆に聞き返した。
「何の約束?」
すると、平然とこう言ってきた。
「離婚のためのお金だったので、目的がなくなった以上、返してもらいます」
その瞬間、頭の中で何かが切れた。
いやいやいや。
そっちが言い出した話でしょ?
しかも、私はちゃんと離婚した。
条件は成立してる。
なのに、あとから「やっぱり返して」は通らない。
当然、断った。
その時は、それで終わると思っていた。
でも違った。
本当に訴えてきた。
裁判。
正直、この時点で呆れた。
ここまで来るのかって思った。
一審。
結果は——
負け。
返還命令。
正直、信じられなかった。
意味が分からなかった。
「離婚のための金銭だから、目的が終了した以上、返還義務がある」
そんな理由だった。
納得できるわけがない。
こっちは実際に離婚してる。
条件は達成してる。
それなのに負ける?
その時、本気で悔しかった。
でも、ここで終わらせる気はなかった。
控訴した。
二審。
ここで、すべてが変わった。
裁判所の判断はこうだった。
「本件の金銭は、離婚を成立させるための対価であり、すでに目的は達成されている」
つまり——
返す必要はない。
完全にひっくり返った。
あの時の空気、今でも覚えてる。
相手の顔、明らかに変わってた。
それまで余裕だったのに、一気に崩れた。
結局、私が勝った。
当たり前の結果だったと思う。
でも、ここまで来るとは思ってなかった。
この件で一番思ったのは、
「後出しでルール変える人は、本当に危ない」ってこと。
自分で出した条件を、あとから都合よく変える。
それを当たり前にやる人は、どこまでもやる。
だからこそ、ちゃんと線を引く必要がある。
あの時、もし流していたら、
きっとそのまま押し切られていた。
最初はただの違和感だった。
でも最後は、はっきり分かった。
この話は、最初から普通じゃなかった。
そして、最後まで普通じゃなかった。
ただ一つだけ言えるのは、
「払う側は軽くても、受け取る側は覚悟がいる」ってこと。
500万円。
数字だけ見れば大きい。
でもそれ以上に大きかったのは、その後に起きた全部だった。
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